戻り道があるから、私は前に出られる
朝、自作の動画エディタを触っていて、ふと気になったことがありました。
「字幕の色を変えて、やっぱり前のがよかった、と思ったとき、Ctrl+Z で戻れたら楽だな」
これまでも戻る方法はあったんです。
マウスでもう一度クリックして、元の色を選び直せばいい。
でも、それは「今から元の色を選び直す」のであって、「戻る」ではありません。
戻る、というのは、自分が踏んだ足跡を逆にたどること、なのかなと思いました。
設計対話で「65%しか確信が持てません」と言われた夜

前日の夜、AI と Undo-Redo 機能の設計を詰めていました。
「ベストプラクティスである、と95%確信できる?」
そう聞いたら、AI から正直な答えが返ってきました。
「65%です」
低い、と思いました。
多分こうだろう、という設計は出ていたんです。
でも、業界の他のツールがどうしているかを知らないまま、自分の感覚で決めるのが怖かった。
「もう少し調査しましょう。
95%確信が持てるまで」
そう頼みました。
「業界が選ぶ理由」を確認する

AI が3つのエージェントを並列で動かして、いろいろなツールの実装を読み解いてくれました。
戻ってきた答えで、頭の中の地図が一気に広がりました。
業界の多くは「差分」を保存していたんです。
「色を赤から青に変えた」という変化だけを記録する。
私が考えていた「丸ごと保存」とは違う方式でした。
なぜか。
保存する状態が大きいからでした。
デザインツールのデータは何十MB にもなる。
それを毎回丸ごと保存していたらメモリが破裂する。
だから差分にしている、と。
ところが、私の動画エディタの状態は、字幕やスライドの設定を全部合わせても10KB しかなかったんです。
10KB なら、丸ごと保存しても全然平気でした。
むしろ差分よりずっと単純で、バグも入りにくい。
「業界が差分を選ぶのは、状態が大きいから。
私の場合は状態が小さい。
だから丸ごとで十分」
これに気づいた瞬間、自信が一気に上がりました。
65%から95%に。
「触らないと約束する」が、信頼を作る

調査でもう一つ、大事なことを学びました。
あるツールのドキュメントに「undo で勝手に画像をアップロード解除しない」と書かれていたんです。
ユーザーが画像をアップロードして、それを使って絵を描いて、後から undo した時に、画像までアップロード解除されたら困りますよね。
ファイルは履歴の対象外。
「ファイルは変えないと約束する」というのが、そのツールの流儀でした。
これを私のエディタにも当てはめました。
字幕の編集や BGM の配置みたいな「設定の変化」は履歴に乗せる。
でも、音声ファイルや画像ファイルの物理アップロード、削除は履歴に乗せない。
ファイルは変えない、と約束する。
これで設計が固まりました。
戻れる仕組みは、自由を作る

実装が終わって、ブラウザを開きました。
エディタの右上に、見慣れない記号が現れていました。
↶ と ↷。
クリックすると、直前の操作が戻る。
マウスを乗せると「直近: 字幕編集」と教えてくれる。
字幕の色を赤に変えてみました。
Ctrl+Z を押しました。
元の色に戻った。
「戻れる」
それだけのことなんですが、嬉しかったです。
戻れる仕組みがあると、操作するときの心理的ハードルがずっと低くなるんです。
「これを押したらどうなるんだろう」と思ったとき、戻れる確信があれば、押してみればいい。
戻れない確信しかなければ、押す前に5分悩む。
5分の悩みを、Ctrl+Z が消してくれる。
暮らしの中の「戻れる」

これは道具を作るときだけじゃなく、暮らしの中でもそうだなと思いました。
何かを試したいとき、「戻り道」があるかないかで、私の動きやすさが全然違ってくる。
例えば、子どもとのルールを変えてみたいとき。
「うまくいかなかったら元に戻せばいい」と最初に決めておくと、思い切って試せます。
「もう変えたら戻せない」と思うと、変える前に何日も悩んでしまう。
戻り道があるだけで、私は前に出られるんです。
戻れない決断ばかりだと、私は固まってしまう。
だから、何かを始めるときには、戻り道を一つだけ準備してから飛び込むようにしています。
95%まで詰める習慣

それからもう一つ、設計対話で学んだことがあります。
「これでよさそう」と思ったときに、すぐ動かないで、「何%確信が持てる?」と自分に聞く習慣。
65% なら、それは「多分こうだろう」のレベルです。
動き出せば動けます。
でも途中で「やっぱり違った」が起きやすい。
95% まで詰めると、迷いなく動けます。
途中で揺れない。
100% は無理なんです。
世の中に未知の要素はいつもあるから。
でも 95% なら、起こりうる多くのケースを想定できている、という感覚が持てます。
ただ、95%まで詰めるには時間がかかります。
今回は3つのエージェントが並行で動いてくれたから、調査時間が圧縮できました。
一人で全部調べていたら、何時間もかかったと思います。
道具をうまく使うと、95%まで詰める時間が短くなる。
これはこれからも大事にしていきたい習慣です。
戻れる安心感を、これからも作っていく

朝の作業が終わって、AI に「動作確認OK」と伝えて、5つの Issue を閉じてもらいました。
これで動画エディタは、Ctrl+Z で戻れるようになりました。
↶ ↷ ボタンも出ています。
「直近: BGM 移動」みたいに、戻る先が tooltip で表示されます。
道具が、私の足跡を覚えてくれている、という感覚があります。
明日も、何かを「思い切ってやってみる」ことがあると思います。
そのとき、戻り道を一つだけ準備してから飛び込みたい。
戻れる、と分かっているだけで、私はもう少し勇気が出せそうです。

