作ったものを捨てる夜のこと
夜の遅い時間でした。
娘のために作っている英語アプリに、新しいゲームを追加していたんです。
ぷよぷよみたいに文字が上から降ってきて、横一列に英単語ができたら消える。
頭の中では完璧に面白いはずでした。
実装を終えて、「できた」と思って娘に見せました。
画面を見た娘が言ったのは、「これ、どうなるのが正解かわからない」でした。
ランダムなアルファベットが積み上がっていくだけで、単語なんて全然できません。
考えてみれば当然です。
ぷよぷよは4〜5色を揃えるゲームですが、アルファベットは26文字もあります。
偶然「CAT」が横に並ぶなんて、ほぼ起こりません。
作る前に気づけたはずのことでした。
でも「ぷよぷよと英単語を組み合わせたら面白いかも」というアイデアに興奮して、
手を動かすのが先になっていました。
「ツムツムみたいにしたら?」
娘がそう言いました。
ツムツムは、画面に並んだキャラを指でなぞってつなげるゲームです。
落ちてくるのを待つのではなく、自分で選べます。
文字が降ってくるのを「待つ」のではなく、
散らばった文字の中から自分で単語を「見つける」。
その違いは大きいと思いました。
書いたコードを全部消して、一から書き直しました。
作り直しても、すぐにはうまくいかない
ツムツム方式に変えたら、それで完成——とはなりませんでした。
最初に作ったヒント機能は、グリッド上の文字をハイライトして「ここに単語があるよ」と教えるものでした。
でも斜めにジグザグに光っても、それが何の単語なのかさっぱりわかりません。
娘に見せたら「ヒント意味わからん」と一蹴されました。
結局、日本語の意味をタップしたら英語のスペルがそのまま見える、というシンプルな方式に落ち着きました。
凝った仕組みより、ただ答えを見せるほうがよっぽど親切だったんです。
それから、せっかく見つけてほしい単語をグリッドに埋め込んでも、別の単語を消したときに文字がずれて壊れてしまう問題もありました。
消すたびに埋め直す仕組みを入れて、ようやく安定しました。
一つ直すと、別のところが壊れます。
直して、壊れて、直して。その繰り返しでした。
「捨てる」ことの練習
ものを作っていると、「ここまで作ったんだから」という気持ちが出てきます。
もったいない。なんとか活かせないか。
でも、使う人が「わからない」と言ったものは、どう手を加えてもわからないままだったりします。
根本の設計が違っていたら、パッチを当てるより作り直すほうが早いですし、結果もいいものになります。
頭ではわかっていても、毎回少しだけ躊躇します。
今回は娘の「どうなるのが正解?」という言葉が背中を押してくれました。
正解がわからないゲームは、ゲームとして成り立っていません。
それはもう、直すとか改良するとかのレベルではなかったんです。
ヒントだって同じでした。
「意味わからん」と言われた機能は、改良するより捨てて作り直したほうがずっと良いものになりました。
書き直したあとのこと
ツムツム方式に変えて、マスにアルファベットを並べて、指でなぞって単語を作るゲームにしました。
「星」「猫」みたいに日本語のヒントが出て、その英単語を探します。
見つけたら次のラウンドに進む。
娘が「STAR」を見つけて指でなぞったとき、文字が消えて新しい文字が降ってきました。
「あ、これは楽しい」
その一言で、捨てた分のコードが報われました。
使う人の声だけが正解を教えてくれる
作り直す勇気は、自分の中からはなかなか出てきません。
少なくとも私の場合はそうです。
「もったいない」「まだ使えるかも」という気持ちのほうが、いつも先に来ます。
でも、目の前で「わからない」と言っている人がいたら、それはもう答えが出ています。
直すのではなく、作り直す。
娘の「楽しい」を聞くたびに、少しだけ「捨てる」のが怖くなくなっていく気がしています。
次にまた「わからない」と言われたとき、今度はもう少し早く手放せるかもしれません。

