ブラウザの外に出たら、景色が変わった
Google Apps Script(GAS)を5年間使ってきました。
職場の業務効率化、スプレッドシートの自動処理、メールの一括送信。
毎日のようにブラウザのエディタを開いて、コードを書いて、実行ボタンを押す。
それが私のGASとの付き合い方でした。
5年です。
決して短くない時間。
でも、今日気づきました。
私はずっと、ブラウザという部屋の中だけでGASを使っていたんだなと。
きっかけは「ふと思ったこと」

最近、Claude Codeというツールを使って開発をしています。
ターミナルでコマンドを打って、ローカルのファイルを編集して、Gitで管理して。
いわゆる「普通の開発」のやり方です。
ある日、ふと思いました。
「GASも、ローカルから触れないのかな」
考えてみれば不思議な話です。
普段のWeb開発ではローカルでコードを書くのが当たり前なのに、GASだけはずっとブラウザのエディタで書いていた。
疑問にすら思わなかった。
調べてみたら、claspというツールがありました。
Googleが公式に出しているもので、GASのコードをローカルで編集して、コマンド1つでGoogleに反映できる。
そんなものがあったんだ、と思いました。
5年間知らなかった。
忘れていたツール

実は、ローカルからGoogle Workspaceを操作するツールを以前インストールしていたことがわかりました。
gws というツールです。
まったく記憶にない。
「何入れたっけ?」は、パソコンを使っていると誰にでもあることだと思います。
便利そうだからとりあえず入れて、使わないまま忘れる。
でも今回は、改めて必要になったタイミングで再会できた。
道具は、使う人の準備ができたときに初めて「見える」のかもしれません。
4,000行の壁

claspを使えるようになった私が最初にやったのは、他の人が作ったGASアプリのリファクタリングでした。
開いてみて驚きました。
4,341行が1つのファイルに入っている。
普段のWeb開発だったらありえない構造です。
機能ごとにファイルを分けて、フォルダで整理して、必要なものだけ読み込む。
それが当たり前だと思っていました。
でもGASは違いました。
URLが1つしかない。
画面の切り替えも、データの処理も、全部1つのファイルの中で完結している。
まるでワンルームに家具を全部詰め込んだような状態です。
正直、戸惑いました。
どこから手をつけていいかわからない。
読んでも読んでも、全体像が見えてこない。
でもファイルを分割できることを知って、少し安心しました。
claspを通せば、機能ごとにファイルを分けてローカルで管理できる。
いつもの開発と同じ感覚で整理できるんです。
4,341行の塊が、役割ごとに分かれていく。
見通しがよくなる。
それだけで、コードの意味が急に理解できるようになりました。
知らなかったのは、ツールだけじゃない

振り返ると、私が知らなかったのはclaspの存在だけじゃありません。
「GASはブラウザで書くもの」という思い込みを持っていたこと。
その思い込み自体に気づいていなかったんです。
5年間、不便だと思ったことはありました。
エディタが使いにくい、バージョン管理がしづらい、コードが長くなると見通しが悪い。
でもそれを「GASだから仕方ない」と片付けていました。
仕方なくなかった。
解決する方法はずっとそこにあったのに、「そういうもの」だと思い込んでいたから探しもしなかった。
これは開発に限った話ではないと思います。
「そういうもの」と思っているものの中に、実はもっと楽になる方法が隠れているかもしれない。
道具が変わると、問いが変わる

ブラウザの中でGASを使っていたときは、「このスクリプトをどう書くか」しか考えませんでした。
でもローカルで触れるようになったら、「このコードをどう整理するか」「他のプロジェクトと同じように管理できないか」「Gitで履歴を残せないか」と、考えることが一気に増えました。
道具が変わっただけなのに、見えている世界が違う。
同じ川でも、岸から見るのと船に乗るのでは景色が全然違います。
川は何も変わっていないのに、自分の立ち位置が変わるだけで見えるものが変わる。
新しいツールを覚えることは、新しい立ち位置を手に入れることなのかもしれません。
「知らなかった」を楽しめるようになった

以前の私だったら、「5年も使っていて知らなかったなんて恥ずかしい」と思っていたかもしれません。
でも今は、ちょっと違います。
AI開発を始めてから、知らないことに出会う頻度が格段に上がりました。
毎日のように「そんな方法があったのか」と思う。
最初は焦りもありましたが、だんだん慣れてきました。
知らないことを知る瞬間って、実はすごく気持ちいいんです。
パズルのピースがカチッとはまるような感覚。
昨日までぼんやりしていた輪郭が、急にくっきりする感覚。
その瞬間がくるたびに、「まだまだ知らないことがある」ということが怖くなくなっていきます。
5年使ったツールにまだ知らない顔があった。
それは恥ずかしいことじゃなくて、むしろ嬉しいことだと思えるようになりました。
ブラウザの外は広い

GASのコードをローカルで開いた瞬間の、あの「あ、こんなこともできるんだ」という感覚。
小さなことですが、忘れたくないなと思います。
ブラウザの中だけが世界じゃなかった。
知らなかっただけで、外にはもっと広い場所があった。
きっと今も、私が「そういうもの」と思い込んでいることがたくさんあるはずです。
仕事のやり方も、暮らし方も、自分自身のことも。
だからこそ、新しい道具に手を伸ばしてみること。
「これってもっと楽にならないかな」と疑ってみること。
その小さな一歩が、見える景色を変えてくれる。
5年かかっても、遅くはないんです。
気づいたその日が、一番早い日なのだから。
追記 — 色が変わると、気分が変わる

claspでファイルを分割した話を書きましたが、その後がありました。
一晩で11個の機能を追加して、さらにテーマ切替までつけたんです。
ダークモード、ピンク系、パステル系、ミント系の4つ。
ヘッダーにある小さな丸をクリックすると、画面全体の雰囲気がガラッと変わります。
これ、実はChrome拡張で同じことをやっていました。
Google KeepやGoogle Tasksの見た目を変える拡張を作ったとき、4つのテーマを用意したんです。
そのときの色の定義を、そのままGAS Web Appに持ってきました。
面白いのは、色を変えるだけで「自分のもの」感が一気に増すこと。
もともと他の人が作ったアプリのコードをベースにしていたから、どこか借り物感があったんです。
名前を「MyPortal」に変えたときも嬉しかったけど、色を自分好みにしたら「これは私のダッシュボードだ」という実感が強くなりました。
「不便」の正体

テーマを調整しているとき、ライトテーマでボタンが濁って見える問題に気づきました。
ダーク背景で映えるネオングリーンが、白っぽい背景では「汚い」んです。
同じ色なのに。
これって、日常にもあるなと思いました。
ある環境ではうまくいっていたやり方が、環境が変わると急にしっくりこなくなる。
仕事のルール、人間関係の距離感、生活のリズム。
「今までこれでよかったのに」と戸惑うけど、環境が変わったなら合わせ方も変える必要がある。
色をテーマに合わせて調整したように、自分のやり方も場所に合わせてチューニングしていいんだと思います。
次にやりたいこと

作業の途中で、ふと気づいたことがあります。
私は仕事でAppSheetというツールを使っています。
データの入力や管理はAppSheetでやっているけれど、見た目はあまり自由に変えられない。
でも、AppSheetのデータはスプレッドシートに入っています。
そしてGAS Web Appは、スプレッドシートを自由に読み書きできます。
つまり、裏側はAppSheet、表側はGAS Web Appという組み合わせができるんです。
今日一日でclaspを覚えて、ファイル分割して、11機能追加して、テーマ切替をつけた。
その全部が、次のアイデアへの準備だったような気がしています。
新しいことを覚えると、次の「やりたいこと」が見えてくる。
これだから、ものづくりはやめられないんです。

