自動化・AI開発

AIで何でも作れる時代、自分を守る準備はしていなかった

Kanae

夜の9時を過ぎていました。

Chrome拡張機能の公開準備が、本当の最後の一歩まで来ていました。
書類を取り寄せて、本人確認も通って、英語のスクリーンショットも揃って、サポート用のページも作って。
あとは「審査のため送信」のボタンを押すだけ。

そう思った瞬間に、画面の隅で、わたしの個人携帯番号がちらっと見えました。


「これ、世界中に出るやつだ」

「これ、世界中に出るやつだ」

EU向けには、デベロッパーの名前・住所・電話番号を公開する義務があります。
わたしのような個人開発者でも、本人確認をして、正式な情報を出さないといけません。

知っていました。
だからバーチャルオフィスを契約していました。
住所もそっちで揃えていました。

でも、電話番号だけ、ふだん使っているメインの携帯番号を入れてしまっていたんです。

サブ番号は持っていました。
事業用に分けたくて、わざわざ用意していました。
それなのに、登録のときに、慣れたほうの番号を入れてしまった。

「あとで直せばいいか」と、その時のわたしは思っていました。


「あとで直せばいい」が効かない世界

「あとで直せばいい」が効かない世界

公開ボタンを押す直前に、ふと指が止まりました。

本当にあとで直せるだろうか。

EUの誰かが見られる状態で公開された電話番号は、きっと誰かのスクリーンショットに残ります。
検索エンジンに拾われるかもしれません。
アーカイブサイトに保存されるかもしれません。

「やっぱり消したい」と思ったときには、もう手遅れかもしれません。

ふだんのわたしは、「あとで直せばいい」を結構な頻度で使います。
完璧主義で動けなくなるのが嫌で、まず出して、後で直す。
それで助けられたことも、たくさんありました。

でも、個人情報だけは違うんです。

出した瞬間に、もう取り返せないものがある。
それを思い出した瞬間、急に怖くなりました。


直そうとしたら、想像以上に手強かった

直そうとしたら、想像以上に手強かった

「じゃあ今すぐ直そう」と思いました。
そんなに難しいことじゃないだろう、と思っていました。

でも、Google お支払いプロファイルに新しい番号を入れても、Chrome Web Store の画面は古い番号のまま。
シークレットウィンドウで開いても変わらない。
ブラウザのキャッシュではなくて、向こうのサーバーで固定されているらしい。

公式のFAQには「電話番号の変更には再認証が必要」とだけ書いてありました。
でも、その「再認証」をどこからやるのか、書かれていない。

何回試しても、自動で「確認済み」に戻ってしまう。

検索しても、解決策が出てこない。
DSAという法律は新しくて、トレーダー宣言の電話番号を変えたい個人開発者なんて、まだ誰も書いていなかったのです。


たどり着いた、たったひとつの入り口

たどり着いた、たったひとつの入り口

あきらめかけていたとき、画面のどこかに「身元確認を開始する」という小さなボタンを見つけました。

押してみました。

身分証明書のアップロード。
住所証明書の再アップロード。
新しい電話番号の入力。
昨日通したはずの本人確認を、もう一度ぜんぶやり直すことになりました。

「内容を確認し、数日以内にご連絡いたします」

そう書かれたダイアログが出て、ようやく一息つきました。

待つしかありません。
週末をはさむから、月曜以降になるかもしれません。

でも、これで通れば、わたしの個人携帯がEUのユーザーから見える状態になることはありません。


AIで作れる速度と、自分を守る速度のミスマッチ

AIで作れる速度と、自分を守る速度のミスマッチ

このトラブルで、はっきり気づいたことがあります。

AIで開発する速度と、自分を守る準備の速度は、まったく釣り合っていません。

AIと一緒なら、Chrome拡張機能は数日で作れます。
でも、それを安全に公開するための準備は、何ヶ月もかかるんです。

  • 屋号を決める
  • バーチャルオフィスを契約する
  • 事業用の電話番号を別に持つ
  • 住所証明書を取り寄せる
  • 開業届を直す
  • 必要なら法人化を検討する

これは全部、コードを書くことよりずっと地味で、ずっと時間がかかります。

それに、検索しても情報がほとんどありません。
今までのインターネットなら、誰かが先にハマって、誰かが先に解決して、誰かが先に書いてくれていました。
でも、AI開発で公開できる人が一気に増えた今、そのリスクの話は追いついていません。

「個人情報を公開しちゃう可能性を認識したうえで、準備をする必要がある」

AIを使いこなしている人ほど、その準備が後回しになっていそうなと思います。
だってコードを書くほうが楽しいし、AIが助けてくれるから速いし。

でも、自分を守る準備だけは、AIに任せられません。
バーチャルオフィスとの契約も、開業届の住所変更も、サブ番号の登録も、ぜんぶ自分の足でやるしかない。


公開ボタンを押せる日まで

公開ボタンを押せる日まで

確認メールが届くまで、たぶん週明けまで待つことになります。

その間にできることは、もう一度、画面の隅々まで自分の情報を見直しておくこと。
そして、これからAIで何かを公開しようとしている人に、こういう罠があるよと伝えておくこと。

わたしは運が良かったと思います。
最後の最後で気づけたから。

でも、気づかずに送信ボタンを押していた未来も、確実にあったんです。
今ごろ、わたしの個人携帯番号は、世界中の誰かのキャッシュに残っていたかもしれません。


公開する前のドキドキは、たぶん自分を守るための本能だったんだと思います。
あの一瞬の違和感を無視しなくて、本当によかった。

「あとで直せばいい」が効かない場面が、世の中にはあります。
特に、自分の情報を世界に出す瞬間は。

だから、AIで作れる時代だからこそ、ボタンを押す前に、深呼吸をひとつしようと思います。
それから、もう一度、画面の隅まで見ようと思います。

公開ボタンは、まだ押していません。
押せる日が来たら、ちゃんと押します。

ABOUT ME
かなえ
かなえ
個人開発を応援する非エンジニア
婚約破棄をきっかけに、29歳で未婚の母になると決めました。
不安と向き合いながら、10年かけて働き方を少しずつ作り変えてきた40代です。

AppSheetやGASを独学で覚え、いまはAIを使った個人開発を毎日続けています。
個人開発を応援する非エンジニアとして、等身大の試行錯誤や、子育て・自立・副業のことを、正直に記録しています。
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