「切らない」という選択
VTuberアバターの口を自然に動かしたい。
そのためにずっと悩んでいました。
口を上唇と下唇に分けて、別々に動かす。
理屈としては正しい。
でもやってみると、画像がぱつっと切れてしまう。
まるでハサミで写真を切ったみたいに。
「切る」という発想自体が、間違いだったのかもしれません。
問題を言葉にする力

「ネズミの歯になる」。
口角を横に引いたとき、歯も一緒に伸びてしまう現象を見て出てきた言葉です。
技術的には「メッシュの均一変形による意図しない頂点移動」なんですが、「ネズミの歯」の方がずっと本質を突いている。
問題を正確に言葉にできたとき、解決策が見えてくることがあります。
「ぱつっと切れちゃう」も同じでした。
この一言で、パーツを分離するアプローチを捨てて、画像は1枚のまま変形のルールだけを変える方向にたどり着けた。
技術の知識がなくても、「これ変だよ」「こうなっちゃう」と言葉にできることには価値があるんです。
切らずに分ける

結局たどり着いたのは、画像を切らずに「ここは動いていい」「ここはあまり動かないで」と領域を分ける方法でした。
唇はしっかり動く。
歯はほとんど動かない。
鼻には影響しない。
それぞれの領域に、違うルールを与える。
物理的に切るのではなく、見えない境界線を引く。
これって、暮らしの中でもよくある考え方かもしれません。
たとえば仕事とプライベートを完全に切り離そうとすると、どこかで無理が出る。
でも「ここまでは仕事モード」「ここからは自分の時間」と、ゆるやかに境界線を引くことはできる。
ぱつっと切らなくても、じわっと切り替えていく。
AIとの共同作業で気づくこと

今回の「ゾーンベース変形」という仕組みは、AIと一緒に作りました。
私がやったのは「ぱつっと切れちゃうからダメ」「ネズミの歯になる」「口の中も調整したい」と伝えること。
技術的な設計と実装はAIがやってくれた。
4本のベジェカーブとか、smoothstepフェードとか、そういう難しいことは私には分からない。
でも、「何が問題か」を言葉にすることはできる。
それだけで、ものが作れてしまう時代になったんです。
コードが書けなくても、問題を感じて、言葉にして、伝えることができれば。
それは立派な「開発」だと思います。
少なくとも、私はそう信じて毎日続けています。
完璧じゃなくていい

口の動きは、まだ完璧じゃないです。
もっと滑らかにしたいし、もっとリアルにしたい。
でも、昨日より今日の方がよくなっている。
それで十分だと思っています。
完璧を目指して動けなくなるより、「昨日よりちょっとマシ」を毎日積み重ねる方が、結局遠くまで行けると思います。
切らなくていい。
完璧じゃなくていい。
でも、手は止めない。
そういう開発を、これからも続けていきます。
追記: 動いているふりをしていたもの

今日、もうひとつ学んだことがあります。
完成したと思っていた仕組みが、実は何も動いていなかったこと。
スライダーを作って、ボタンも付けて、カーブも表示して。
見た目は完璧にできていました。
でも中身が空っぽだった。
スライダーを動かしても、絵は何も変わらない。
理由は単純で、仕組みが効くために必要な「粒度」が足りなかったんです。
これって、日常にもよくある話かもしれません。
ルールを作っても、それが届かない場所では意味がない。
制度を整えても、現場に浸透しなければ変わらない。
大事なのは、「動いているふり」に気づけるかどうか。
そして気づいたら、恥ずかしがらずに方向転換できるかどうか。
次は、もっとシンプルで、もっと確実に届く方法でやり直します。

